SR-Article

HQ_4c 一般労働者のメンタルヘルス疾患の予防にデジタルヘルスアプリ(ストレスマネジメント)のアプローチは有用か?

本記事の対象者
(●)サービス利用者向け(個人ユーザ・産業保健スタッフなど)
(●)サービス事業者向け(開発企業・サービス提供関係者)
)学術関係者・行政担当者向け

 

解説動画

※字幕の文字は右下の字幕ボタンから言語を変更できます。

要約

このヘルスケアクエスチョン(HQ)におけるシステマティックレビュー(SR)では、一般労働者を対象としたデジタルヘルステクノロジー(DHT)を用いたストレスマネジメントに関するランダム化比較対象試験(Randomized Controlled Trial: RCT)に関する文献検索を行い、7件が抽出され、うち4件がMAに組み入れとなりました。DHTを用いたストレスマネジメントの効果としては、精神症状である抑うつ症状(介入直後及び6カ月後)、主観的ストレス(介入直後及び6カ月後)、バーンアウト(介入直後及び6カ月後)を減少させ、ワーク・エンゲイジメント(介入直後及び6カ月後)の改善に有効であることが示されました。

推奨 

推奨文 メンタルヘルス不調の一次予防対策として、⼀般労働者に対してDHTを用いたストレスマネジメントによる介入を行うことを推奨する。
推奨度 ①行うことを強く推奨する
②行うことを推奨する
③行わないことを推奨する
④行わないことを強く推奨する
⑤エビデンス不十分のため推奨を保留する
合意率 87.5% (100%)
エビデンスの強さ B(中)

推奨の見かた

1.何を調べたの?

近年、スマートフォンなどで手軽に使用できるメンタルヘルス対策用のアプリや、インターネットを介したメンタルヘルスに対するサービスが数多くリリースされています。一方で、これらのアプリやサービスで、メンタルヘルス症状の改善効果が検証されているサービスや製品は限定的であり、現在市場に出回っているものに本当に改善効果があるかどうかについては明確ではありません※1。
これまでの学術研究において、マインドフルネスはメンタルヘルス症状の改善効果があることがわかっています。しかし、ストレスマネジメントをベースにしたインターネット介入やアプリによる介入などが労働者のメンタルヘルス一次予防について与える影響に関する学術的エビデンスは多くないのです。
そこで、私たちはシステマティックレビュー(SR)やメタアナリシス(MA)という手法を用いて、デジタルヘルステクノロジー(DHT)を活用したストレスマネジメントのメンタルヘルス改善効果について調査することにしました。
今回は、DHTを用いたストレスマネジメントに関連する7の学術論文のSRとMAの結果を報告します。

2.どんなことが分かったの?

 論文を調べるときは、専用の学術データベースに「検索式」と呼ばれるキーワードを入力して、ヒットした論文を精査します。DHTを使用した労働者へのメンタルヘルス介入について検索すると37851件の論文が見つかりました。
この論文を様々な適合基準と照合した結果、最終的には7の論文※2-8が労働者を対象としたDHTによるストレスマネジメントによる介入とメンタルヘルス一次予防効果を示した論文として残りました論文選択の過程は解説コラム「PRISMAフローチャートって何?」をご参照ください

DHTを用いたストレスマネジメント介入直後の抑うつ症状をアウトカムにした文献は4件で、その全ての文献が抑うつ症状の有意な減少を報告していました。統合した介入効果(Cohen’s d[95%信頼区間])は、-0.62(-0.75から-0.49)と抑うつ症状の有意な軽減効果が確認されました。また、介入6カ月後の抑うつ症状をアウトカムにした4件においても、全ての文献において有意な減少効果を示し、その効果は-0.57(-0.72から-0.43)でした。主観的ストレスへの介入直後に関する3文献でも有意な改善効果が示され、その効果量は-0.86(-1.03から-0.69)でした。また、介入6カ月後の効果量も-0.73(-0.96から-0.50)と介入直後と同程度の改善効果が認められました。精神症状の一つであるバーンアウトに対するストレスマネジメント介入でも介入直後、介入6カ月後ともに有意な軽減効果が確認されました。介入直後のバーンアウトに対する効果量は-0.61(-0.83から-0.38)、介入6カ月後の効果量は-0.70(-0.86から-0.53)でした。

また、ポジティブ心理学の観点から、ワーク・エンゲイジメントをアウトカムとした3文献のうちストレスマネジメント介入直後は2文献において有意な改善効果が報告されており、介入6カ月後も同じく2文献で有意な改善効果が報告されていました。統合した効果量でも介入直後は0.24(0.11から0.37)、介入6カ月後も0.27(0.12から0.41)と僅かながら有意な改善効果が認められました。

このSRおよびMAの結果、DHTを用いたストレスマネジメントについては、労働者の抑うつ、主観的ストレス、バーンアウトを改善し、ワーク・エンゲイジメントを向上させることが明らかになりました。

以下の図内フォレストプロットも併せてご参照ください。

HQ4c_StressM2

3.この記事はどんな役に立つの?

これらのエビデンスより、DHTを用いたストレスマネジメント介入は、労働者の抑うつ、主観的ストレス、バーンアウトを有意に改善し、ワーク・エンゲイジメントを有意に改善させることが確認されました。従って、メンタルヘルス不調の一次予防対策として、一般労働者に対してDHTを用いたストレスマネジメントによる介入を行うことを推奨します。一方で、本推奨のSRにおいて使用された介入プログラムはGetOn Stressという製品のみであり、一般化可能性は担保されていないことに留意が必要です。現時点ではGetOn Stress以外のDHTを用いたストレスマネジメントエビデンスの集積が不十分であり、今後、一層のエビデンスの集積が望まれます。

しかし、気を付けておかねばならないことは、この記事が示している効果は、あくまで限られた学術論文で評価されたプログラムが示す効果であるということです。つまり、巷にあふれている学術的な効果評価がされていないマインドフルネスに関連するアプリやサービスの効果を全て保証する結果ではないことに注意する必要があります。

更に詳細に知りたい方は

   

 

エビデンス総体表

■ストレスマネジメント介入のエビデンス総体(PDF)

結果のまとめ(SoF)表

■ストレスマネジメント介入のSoF(PDF)

Future Research Question / Limitation

■Future Research Questionは>>>こちら

推奨決定のプロセス(合意形成プロセス開示)

総合指針をご参照ください。

本記事に対するステークホルダによる外部評価(SR)