総合指針

 

1. 推奨決定のプロセス

定例のステークホルダ会議、学会でのシンポジウムや様々なステークホルダの皆様との意見交換をかさね、ヘルスケアクエスチョンに関する内容をブラッシュアップしていきます。

エビデンスとしての「答え」を提供するSR系のHQ原稿(SR-article)は、Minds参照型の評価プロセスを当初通り採用し、推奨度カテゴリーの評価/推奨の評価/エビデンス総体の質評価などのプロセスを経て質保証をはかります。先行してSR-articleとして公開し、ウェブサイトのアンケートフォームから関係者の皆様からご意見をいただき、推奨の作成に反映をさせていきます。

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一方、開発企業などのサービス事業者が参照したいDHTの動向、周辺領域の情報、各種生体情報センシング技術の実践応用上の限界や注意点などのTR系のHQ原稿(TR-article)は、よりタイムリーさが求められるため、ウェブサイトを用いたアジャイル型開発を採用することにしました。アジャイル型開発ではTR-articleの原稿単位で簡便な外部評価を公開前に実施し、ウェブ公開後にステークホルダによる評価を行います。江口班にて組織しているステークホルダ分科会メンバー・関連団体やPPI機会として開催予定である関連学会シンポジウムにおいてウェブ公開記事を案内し、ステークホルダの回答フォーム(記事単位のアンケート)にコメントおよび評価を記載・投票してもらい、フィードバックをいただきます。一定期間経過後、ステークホルダ評価の集計結果を参照し、定期見直しを順次諮っていきます。このような、ステークホルダ参加型による評価と定期見直しを繰り返し、コンテンツの精緻化をはかってまいります。

利用者参加型で、様々なステークホルダのご意見を参考とさせていただきながら、最終的に27のヘルスケアクエスチョンをまとめた総合指針を公開いたします。すなわち、統合指針は関係者の皆様と一緒に作り上げていく性質のものですので、どうぞ皆様のご支援・ご協力をお願いいたします。

2. ヘルスケアクエスチョン(HQ)設定のプロセス

疾病予防を扱うヘルスケア領域、とりわけ企業において従業員の健康を守る産業保健スタッフ、健保組合のほか、ヘルスケア製品・サービスを開発するサービス事業者などが参照したい疑問があります。それらの予防・ヘルスケアに関して知りたい疑問のことを、「ヘルスケアクエスチョン(Healthcare question: HQ)」と位置づけ、本事業ではDHTを用いたメンタルヘルス対策に関する様々なHQを設定しました。

まず、サービス事業者(開発企業・サービスプロバイダ)・サービス利用者(利用企業・産業保健スタッフ・労働者)・学術関係者へのヒアリング調査やアンケート調査、デジタルメンタルヘルスの動向を概観するためのスコーピングレビューなどを通じて、各ステークホルダーがDHTに求める価値や疑問を調査し、ヘルスケアクエスチョン(HQ)の設定に必要な情報を集約しました。

これらの情報を基にしてDeLiGHT作成チームにて27のHQを設定し、8学会の代表者に各HQの相対的重要性を評価頂いたうえで平均スコアを算出して、システマティックレビュー(SR)班は9つのHQを、トレンドリサーチ(TR)班は17のHQの調査を担当することになりました(解説コラム「ヘルスケアクエスチョンって何?」をご覧ください。)。

3. 推奨文作成のプロセス

SRでは系統的な文献レビューによって9つのHQの質的・量的統合を行うことを検討しました。本プロジェクトの特徴として、TRの結果も参照しながら推奨を作成した点が挙げられます。結果として、質的・量的統合に至らなかった6つのHQについては今後の更なる調査が必要なHQ(Future Research Questions)であるという結論に至りました。

従って、本指針では質的・量的統合が可能であった3つのHQに対してTRの調査結果・医療研究開発における患者・市民参画(Patient and public involvement: PPI)の取組による意見も交えながら推奨案を作成しました。なお、HQ4はPPIの意見に基づき認知行動療法、マインドフルネス、ストレスマネジメントはそれぞれの独立したHQとして推奨文を作成するに至りました(表1)。

さらに、DeLiGHT作成チーム内の投票パネルメンバーらの投票によって合意が得られた内容について、統括運営グループである8学会の代表者より承認を受けるというプロセスに沿って本指針の推奨文が作成されました。

HQ4a 一般労働者のメンタルヘルス疾患の予防にデジタルヘルスアプリ(認知行動療法)のアプローチは有用か?

推奨文(案)

l   メンタルヘルス不調の一次予防対策として、一般労働者に対してデジタルヘルス・テクノロジ(DHT)を用いた認知行動療法による介入を行うことを推奨する。

l   DHTを用いた認知行動療法は、労働者の抑うつ、不安、主観的ストレスを有意に改善し、ウェルビーイング注1、ワーク・エンゲイジメント、レジリエンス注2を有意に向上させる。

HQ4b 一般労働者のメンタルヘルス疾患の予防にデジタルヘルスアプリ(マインドフルネス)のアプローチは有用か?

推奨文(案)

l   メンタルヘルス不調の一次予防対策として、一般労働者に対してDHTを用いたマインドフルネスによる介入を行うことを推奨する。

l   DHTを用いたマインドフルネス介入は、労働者の抑うつ、不安、主観的ストレスを有意に改善し、ウェルビーイング注1を向上させる。

HQ4c 一般労働者のメンタルヘルス疾患の予防にデジタルヘルスアプリ(ストレスマネジメント)のアプローチは有用か?

推奨文(案)

l   メンタルヘルス不調の一次予防対策として、一般労働者に対してDHTを用いたストレスマネジメントによる介入を行うことを推奨する。

l   DHTを用いたストレスマネジメント介入は、労働者の抑うつ、主観的ストレス、バーンアウトを有意に改善し、ワーク・エンゲイジメントを有意に向上させる。

HQ7 歩行パラメーター等を利用した運動介入は一般労働者のメンタルヘルス疾患の発症予防に有用か?

推奨文(案)

l   メンタルヘルス不調の一次予防対策として、一般労働者に対してDHTを用いた運動介入を行うことを推奨する。

l   DHTを用いた運動介入は、労働者の精神症状(抑うつ・ネガティブ感情)を有意に改善させる。

HQ8 心拍などのバイオ・フィードバックを利用したDHT介入は労働者のメンタルヘルス疾患の発症予防に有用か?

推奨文(案)

l   エビデンス不十分のため推奨を保留する。

l   バイオ・フィードバックを用いた介入は、ストレス関連症状と関連を認めないとする研究がある一方で、特性不安の減少には効果が認められるとする研究も一部散見されるが、技術的妥当性の担保が不明瞭である。

表1. システマティックレビュー、メタ解析を行ったヘルスケアクエスチョンの推奨文案