メンタルヘルスの不調は、本人の生活の質を低下させるだけでなく、不調が原因で仕事を休む「アブセンティーズム」、出勤していても不調のせいで仕事の能率が大きく損われる「プレゼンティーズム」にも影響するため、産業保健において重要な社会解決課題のひとつとされています。世界保健機関(WHO)の報告書によれば、15-64歳の生産年齢人口において、世界的にも約3億人はうつ症状がある人がいると言われており、治療のみならず、メンタルヘルス疾患の予防対策も重要となります。
ヘルスケアにおいては近年、デジタルヘルス・テクノロジ(Digital Health Technologies: DHT)の普及が進み、特にメンタルヘルス領域においてその活用が進んでいます。スマートフォン・アプリなどで社会実装され、既にヘルスケアサービスの一部としてビジネス応用も始まっています。しかし、それらを活用する際に参考になる科学的根拠を入手・参照することは一般的には困難です。そこで、日本産業衛生学会が中心になり、臨床系学会は日本精神神経学会・日本産業精神保健学会、工学系学会は日本人間工学会・産業保健人間工学会、そして社会医学系は日本産業ストレス学会・日本疫学会・日本心理学会産業保健心理学研究会の関連8学会が連携し、メンタルヘルス疾患の予防に関して、デジタルヘルス・テクノロジーを開発するサービス開発者や一般利用者など広い関係者に受け入れられるような指針を作成することになりました。
この事業は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan agency for medical research and development : AMED)の「ヘルスケア社会実装基盤整備事業」の一環として、令和4年(2022年)よりメンタルヘルスへのDHTエビデンスを整理するために「メンタルヘルスに対するデジタルヘルス・テクノロジ予防介入指針(Developing minds-compliant guidelines for general preventive intervention using digital health technologies for mental health: DeLiGHT)」プロジェクトとしてスタートしたものです(下記サイトも参照ください)。
日本医療研究開発機構(AMED)E-LIFEヘルスケアナビ
https://healthcare-service.amed.go.jp/
本プロジェクトの成果をいち早く世界へ発信するために、本特設サイト「DeLiGHT」ウェブサイトを公開しました。本指針に掲載されているシステマティックレビューはSR記事として掲載されているほか、デジタルメンタルヘルスに関連する技術動向やニーズ調査などのトレンドリサーチの結果についてもTR記事として紹介しています。ビデオコンテンツ(ビデオショート)やインフォグラフを使用してわかりやすく解説する事に加え、各記事には利用者による外部評価(アンケート)機能を設け、適宜アジャイル型でコンテンツのアップデートが行われます。本サイトを活用していただき、デジタル・メンタルヘルスの適切な社会実装がより一層進むことを願っています。
DeLiGHT*プロジェクト研究開発代表者
榎原 毅(産業医科大学・産業生態科学研究所・人間工学研究室 教授)
*AMEDヘルスケア社会実装基盤整備事業「メンタルヘルスに対するデジタルヘルス・テクノロジ予防介入ガイドライン(Developing minds-compliant guidelines for general preventive intervention using digital health technologies for mental health: DeLiGHT)」