SR-Article

HQ_4a デジタルヘルスアプリ(認知行動療法)は働く人の心の健康に役立つのか?

本記事の対象者
(●)サービス利用者向け(個人ユーザ・産業保健スタッフなど)
(●)サービス事業者向け(開発企業・サービス提供関係者)
)学術関係者・行政担当者向け

 

解説動画

※字幕の文字は右下の字幕ボタンから言語を変更できます。

回答

最近、スマートフォンやインターネットを使って心の健康を守る「デジタルヘルスアプリ」が注目されています。働く人の心の健康を支える「認知行動療法」のアプリもそのひとつですが、それが本当に心の健康に役立つのかは、まだはっきりと分かっていません。そこで、認知行動療法のアプリの効果を調べるために、過去の研究論文を適切に集めて(システマティックレビュー)、総合的に分析する方法(メタアナリシス)を用いた文献調査を行いました。高度な実験(ランダム化比較試験)を行った33件の論文を集めて分析した結果、認知行動療法アプリには一定の効果があることが分かりました。具体的には、気分の落ち込み(抑うつ症状)や不安を軽減し、主観的ストレスは介入直後に軽減されることが確認されました。また、心の健康を支える要素として、人間の幸福(ウェルビーイング)の向上が認められ、困難に立ち向かう力(レジリエンス)を高める効果も確認されました。仕事に対する前向きな気持ち(ワーク・エンゲイジメント)については、アプリを使用した直後には明確な効果が確認されなかったものの、6カ月後には向上していることが分かりました。一方で、心理的ストレス反応に対する改善効果や、働きすぎによる消耗感(バーンアウト症候群)の軽減については認められず、仕事のパフォーマンスの改善効果も認められませんでした。今回の研究では、学術的に評価されたプログラムに基づくアプリに一定の効果があることが確認されましたが、市販されているすべてのアプリに同じ効果があるとは限りません。そのため、利用する際には慎重に選ぶことが重要です。

推奨

推奨文 メンタルヘルス不調の⼀次予防対策として、⼀般労働者に対してDHTを用いた認知行動療法による介入を行うことを推奨する。
推奨度 ①行うことを強く推奨する
②行うことを提案する
③行わないことを提案する
④行わないことを強く推奨する
⑤エビデンス不十分のため推奨を保留する
合意率 87.5% (100%)
エビデンスの強さ C(弱)

推奨の見かた

1.何を調べたの?

近年、スマートフォンなどで手軽に使用できるメンタルヘルス対策用のアプリや、インターネットを介したメンタルヘルスに対するサービスが数多くリリースされています。一方で、これらのアプリやサービスで、メンタルヘルス症状の改善効果が検証されているサービスや製品は限定的であり、現在市場に出回っているものに本当に改善効果があるかどうかについては明確ではありません※1。
これまでの学術研究において、CBTはメンタルヘルス症状の改善効果があることがわかっています。しかし、CBTをベースにしたインターネット介入やアプリによる介入などが労働者のメンタルヘルス一次予防について与える影響に関する学術的エビデンスは多くないのです。
そこで、私たちはSRやメタアナリシスMAという手法を用いて、DHTを活用したCBTのメンタルヘルス改善効果について調査することにしました。
今回は、DHTを用いたCBTに関連する33編の学術論文のSRとMAの結果を報告します。

4a

2.どんなことが分かったの?

論文を調べるときは、専用の学術データベースに「検索式」と呼ばれるキーワードを入力して、ヒットした論文を精査します。DHTを使用した労働者へのメンタルヘルス介入について検索すると37851件の論文が見つかりました。
この論文を様々な適合基準と照合した結果、最終的には33編の論文※2-34が労働者を対象としたDHTによる認知行動療法による介入とメンタルヘルス一次予防効果を示した論文として残りました(論文選択の過程は解説コラム「PRISMAフローチャートって何?」をご参照ください)

DHTを用いたCBT介入直後の抑うつ症状をアウトカムにした文献は14件で、そのうち有意な減少を報告した文献は7件でした。その介入効果(Cohen’s d)は、-0.27、95%信頼区間(Confidence interval: CI)は-0.38から-0.16と大きくはないものの、有意な効果が確認されました。また、これらの文献のうち介入後6カ月後の抑うつ症状について報告した文献の効果量においても、-0.17(-0.31から-0.04)と有意な介入効果が示されました。また、不安症状をアウトカムにした9件2,3,9-11,19,21,22,30)文献における効果量は-0.16(-0.25から-0.08)と有意な減少効果を示しました。主観的ストレスを報告した5文献2,10,19,23,32)においても同様に、-0.57(-0.92から-0.22)と有意な減少効果が示されました。

DHTを用いたCBT介入において、ポジティブ心理学の観点から、ウェルビーイングをアウトカムとした3文献での改善効果は、0.20(0.01から0.39)と僅かながら有意な改善効果が認められました。また、介入6カ月後におけるワーク・エンゲイジメントの改善効果は0.12(0.03から0.21)、介入直後のレジリエンスの改善効果は0.22(0.11から0.32)とウェルビーイングと同様に僅かではありますが有意な改善効果が認められました。

以下の図内フォレストプロットも併せてご参照ください。

HQ4a_iCBT2

3.この記事はどんな役に立つの?

これらのエビデンスより、DHTを用いた認知行動療法(主にインターネットを用いたCBT)は、労働者の抑うつ、不安、ストレスを有意に改善し、ウェルビーイング、ワーク・エンゲイジメント、レジリエンスを有意に向上させることが確認されました。従って、メンタルヘルス不調の一次予防対策として、一般労働者に対してDHTを用いたCBTによる介入を行うことを推奨します。

しかし、気を付けておかねばならないことは、この記事が示している効果は、あくまで33編の学術論文で評価されたプログラムが示す効果であるということです。つまり、巷にあふれている学術的な効果評価がされていない認知行動療法に関連するアプリやサービスの効果を全て保証する結果ではないことに注意する必要があります。

更に詳細に知りたい方は

   

本記事に対するステークホルダによる外部評価(SR)

1 情報の有益性
2 他者への推奨度
3 情報の質
4 情報の新鮮さ
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

※平均スコア 回答者(n=15)