解説コラム

「本事業で扱うクエスチョンのスコープは?」

本事業にてヘルスケアの指針を作成するにあたり、ヘルスケア指針がカバーする内容・範囲を定める必要があります。例えば、文献検索を行う際にそのようなスコープが定まっていないと、適切な文献の検索を行うことができません。最終的に関連学会として各ヘルスケアクエスチョンに対してどの程度推奨をするのか、といった意思決定を行うためにも対象範囲を定めておく必要があります。いわば、事業の設計図のようなものが、スコープとなります。

 

 

本事業で扱うスコープについて

  • バージョン     :1.4                                                                                                                            
  • 作成日             :2022年11月21日作成(指針等策定支援ワークショップ)(2024年3月29日一部改訂)
  • 作成者             :ガイドライン作成チーム(榎原毅、小島原典子、江口尚、今村幸太郎、金森悟)      

タイトル

メンタルヘルスに対するデジタルヘルス・テクノロジ(DHT)予防介⼊ガイドライン

目的
  1. DHTの体系的な整理
  2. DHTの産業保健応用の現状把握とステークホルダが求める価値の明確化
  3. DHT予防介入効果のエビデンス整理(SR1)
  4. DHT介入の遵守率向上策のエビデンス整理(SR2)
  5. Minds参照の産業保健予防介入指針の作成

トピック
  • DHTによる予防介入効果およびDHTの遵守率(サービス利用者・サービス事業者)
  •  DHTの技術動向と各ステークホルダへのDHT提供価値

健康指針がカバーする視点

本指針は、サービス利用者(一般労働者、産業保健スタッフ、サービス導入企業や健保組合等)、サービス事業者(DHT開発企業、サービスプロバイダ)、学術関係者の各ステークホルダを包括的にカバーします

想定される利用者・利用場面

適用が想定される利用場面は主に下記の通りです。

  • 一般労働者による個人使用(B to C)
  • 健康経営導入企業におけるDHTサービスの導入検討
  • 産業保健スタッフを介した企業に於けるメンタルヘルス対策(B to B to C)
  • DHT開発企業における製品仕様の策定およびサービス提供価値の創出(新ビジネスモデル・新サービス開発)
  • 学術コミュニティにおけるメンタルヘルスに対するDHT活用研究の重要性の涵養

既存の指針/ガイドラインなどとの関係
  • WHO(世界保健機関)から2022年9月にWHO guidelines on mental health at workが発行されています。これはDHTに限定したものではなく、労働者の精神健康の保持増進、予防、職場復帰および就労継続に関するエビデンスに基づいた推奨事項を提供しています。
  • 米国USPSTF (United States Prevention Task Force、ボランティアパネル)が食事・運動に対する行動カウンセリングの推奨を提案しています(保険会社が参照)。CPSTF (Community Prevention Service Task Force)ではデジタルツール活用の推奨を出しています(PCを用いたオンラインカウンセリング、歩数計、モバイルアプリなど)。
  • 英国保健省(DHSC)下にあるNICE(National Institute for Health and Care Excellence)によるデジタル活用による行動変容のポジティブリスト(チェックリスト)が提供されています。
    Evidence standards framework for digital health technologies など。
  • 民間企業(ORCHA)がヘルスケアアプリ評価を実施・公開しています(ORCHA App Finderという検索エンジンを公開、誰でも無料で利用可)
  • 米国精神医学会(APA)は精神科医をはじめとするメンタルヘルスの専門家や患者等の関係者が、メンタルヘルスアプリを選択し使用する際に考慮すべきポイント(The Comprehensive App Evaluation Model)を整理し、公開しています。
  • モバイルヘルスアプリの評価指標は人間工学領域などから提案されています:System Usability Scale Benchmarking for Digital Health AppsMobile App Rating Scale (MARS)MARS日本語版Digital Health Scorecardなど。
  • 国内においては、経済産業省が主導し(事務局:NTTデータ経営研究所)、令和5年度ヘルスケア産業基盤⾼度化推進事業(需給環境整備等事業):「心の健康保持・増進領域等の重要疾患領域でエビデンスに基づいたサービスの選択を可能とする仕組みの検討事業」がスタート(2023年4月~)しました。デジタルヘルステクノロジの製品・サービス選択の際に参照できる標準情報開示項目をサービス提供者、雇用主、アカデミア等の各立場の有識者が参画し、品質・有用性をオーソライズする仕組みと社会実装法について現在議論がすすめられています。
  • 技術動向についてはDigital Phenotype分類の報告が複数なされています。詳しくはHQ-15 を参照

 健康指針がカバーする範囲

本ガイドラインがカバーする範囲は以下の通りです。

  • 一般労働者(夜勤交代制勤務従事者を含む)。軍隊従事者など特殊労働は除きます。
  • DHT(本事業で扱うDHTの定義参照)を⽤いた⾮薬物介⼊全般(運動・栄養・⽣活習慣指導、認知⾏動的介⼊、等を含む)を対象とします。
  • 運動・栄養・休養など個人の生活習慣に介入するもの(セルフケア)、およびライン・産業保健スタッフによる労務・職場環境改善などによる組織介入を対象とします。
  • 精神健康に関するアウトカムは、ネガティブ・ポジティブメンタルヘルスアウトカムを扱います(抑うつ、不安などの精神症状・診断、およびワーク・エンゲイジメントや⼼理的/精神的ウェルビーイングなどポジティブメンタルヘルスアウトカム)。加えて、遵守率・リテンション期間など、デジタルヘルステクノロジの利用自体のアウトカムも扱います。
  • 介入フェーズ:一次~三次予防全般を対象としますが、SRのエビデンスは一次予防に限定します(技術動向やステークホルダのニーズの面からは、予防フェーズを明確に区分けすることが困難なため)。

本ガイドラインがカバーしない範囲は以下の通りです。

  • 非労働者(就学児童・生徒、学校保健の範疇など、非就労集団)

 

重要健康課題
  1.  一般労働者のメンタルヘルス疾患の予防にどのようなDHTを⽤いた⾮薬物介⼊が有用かを明らかにする必要があります。産業保健応用を念頭に、個人・組織介入のバランスに配慮し、益と害の情報を発信することでエビデンスに基づく産業保健活動の推進に資することが期待されます。また、サービス事業者に対し、社会実装を見据えたビジネスモデルの方向性を提示することで、有用なDHTを用いたメンタルヘルス介入サービスの開発および新規事業参入のハードルを下げることによりヘルスケア産業の振興に貢献することが期待されます。
  2.  DHT介入によるアドヒアランス(遵守率)を高める効果的な方法を明らかにする必要があります。メンタルヘルス予防介入において、一般的に採用されるリテンション期間(DHT使用期間)、介入方法・種類によるリテンションレートおよび介入遵守率などの特徴を明らかにすること、ならびにデジタル・アディクションへの対応について検討することは、DHTを用いたヘルスケアサービスの健全な市場発展と製品利用に資することにつながります。
  3.  DHTの技術開発のスピード・市場スピードに対応した学術知見の社会還元方法を検討する必要があります。オーソライズの仕組みおよび学術知見の発信方法、学術知見のアップデートの仕組みなど、予防・社会医学領域における社会実装科学としての枠組み(利用者視点で実行性・有用性のある社会還元方法)を検討する必要があります。

本事業で扱うヘルスケアクエスチョン

 解説コラム1を参照ください。

健康情報の検索

<SR article>

  1. エビデンスタイプ:RCT
  2. 用いるデータベース:PubMed, EMBASE, Cochrane CENTRAL, PsycINFO/ARTICLES, 医中誌
  3. 検索の基本方針:検索式は複数の先行研究を参照して作成し、医学文献検索専門家から助言を得る。

<TR article>

  1. DHTの体系分類に際してはPRISMA声明の拡張版であるPRISMA-ScRに準拠したScoping reviewを行う。技術動向のScoping reviewには、IEEEおよびGoogle schalarのデータベースを用いる。
  2. 産業保健スタッフ、ヘルスケアサービス事業者、研究者、それぞれについてメンバーを募り各5名程度の「産業保健スタッフ分科会」を立ち上げる。サービス利用者の利用実態に関してはインターネット調査を定点観測的に実施し、情報を収集する。各コンテンツについての意見照会およびデルファイ法を用いて意見集約をし、ステークホルダへのDHT提供価値の明確化および産業保健応用の現状把握を行う。

情報の選択基準・除外基準

<SR article>

  • 労働者を対象とした精神健康アウトカムへのDHT介⼊の効果を明らかにするために、以下のPICOを設定(SR1, UMIN試験ID: UMIN000051631)
    P: 労働者
    I: DHTを⽤いた⾮薬物介⼊(運動・栄養・⽣活習慣指導、認知⾏動的介⼊、等を含む)
    C:いずれかの対照群(コンディションは問わない)
    O: 精神健康、ポジティブメンタルヘルス、職場関連アウトカム
  • 労働者を対象としたDHT介⼊のアドヒアランス(遵守率)を明らかにするために、以下のPICOを設定(SR2, UMIN試験ID: UMIN000051630)
    P: 労働者
    I:DHTを⽤いた⾮薬物介⼊(運動・栄養・⽣活習慣指導、認知⾏動的介⼊、等を含む)
    C:いずれかの対照群(コンディションは問わない)
    O:アドヒアランスに関する指標
  • PICOおよびHCQに従い、以下の適格基準を設定
    【組⼊基準】:1) 労働者を対象としている、2)デジタルヘルス介⼊を⽤いている、3)精神健康アウトカム等を評価している、4)無作為化⽐較試験デザインを⽤いている、5)2010年以降に出版された論文である
    【除外基準】:1)特定の疾患を持つ労働者を対象としている、2)労働者ではない者を対象に含んでいる、3)二次予防または三次予防を目的とした介入を用いている、4)特定の疾患または症状への治療効果を評価している

<TR article>

  • 技術動向は過去20年の文献を網羅的に検索、研究論文数の発表件数推移やDHTを用いた研究領域の基盤となる主要な概念、主な機能要素やDHTの技術範囲と性質の特徴などを抽出する
  • 選択基準:Digital Phenotypingから分類した11の技術領域のキーワードを利用、領別にトレンドを調べる
  • 除外基準:対象となるDHT技術自体を扱っていない論文を除外

健康情報の評価と統合の方法

<SR article> *検討中

  • 個々の研究のバイアスリスク評価にはCochrane の評価ツールを利用し,エビデンス総体の評価にはGRADE アプローチの方法に基づく。
  • 効果指標の統合は,質的な統合を基本とし,適切な場合は量的な統合も実施する。
  • 指針公開前後での行動変容の調査を実施(指針を実際に現場で使ってもらい、効果を評価:R6年度・小島原班)

<TR article>

  • アジャイル開発方式により、検索方法などのプロセスをウェブサイトで開示、また関連8学会の代表者による事前評価(チェックリストによる簡易評価)+ステークホルダ評価(市民参画による投票)でリアルタイムに情報を評価する仕組みを構築する。

推奨作成の基本方針

<SR article> *検討中

  • 推奨案の決定は,作成グループのパネル会議に基づく。意見の一致をみない場合には,投票を行って決定する。
  • 推奨案の決定は,エビデンスの評価と統合で作成された資料を参考に,「アウトカム全体にわたる総括的なエビデンスの確実性」,「望ましい効果と望ましくない効果のバランス」,「患者・市民の価値観と希望」,「資源の利用(コスト)」などを考慮して行う。具体的には,SRによって作成された評価シートやSoF 表(summary of findings table)などを参考に,EtD フレームワークを用いて,推奨とその強さを決定する。

最終調整
  • 追加すべき事項(活用方法,評価方法など)を記載し,草案を作成する。
  • 草案に対して,外部評価,およびパブリックコメントを募集する。
  • 上記評価を参考にして,ガイドラインを最終調整する。

 外部評価の具体的方法

<SR article> *検討中

  • 外部評価委員が個別にコメントを提出する。
  • 診療ガイドライン作成グループは,各コメントに対して診療ガイドラインの内容を変更する必要性を討議して,対応を決定する。
  • パブリックコメントに対しても同様に,診療ガイドライン作成グループは,各コメントに対して診療ガイドラインの内容を変更する必要性を討議して,対応を決定する。

 <TR article>

  • 【作成学会の専門家による外部評価(公開前)】+【ステークホルダによるユーザ評価(公開後)】の両輪による、ステークホルダ参加型による総合評価を採用。評価結果の開示と定期見直しを図ることでスパイラルアップで情報をアップデートしていく。
  • 統括運営グループ会合にて定期見直しに着手するかどうかを審議→必要に応じて見直し作業に着手。

公開の予定

<SR article>

  • 最終的に統括運営グループ会合にて承認を得て、統合指針としてPDF版を公開(2025年2月頃を予定)

 <TR article>

  • アジャイル開発方式により、TR-article単位でウェブサイトに随時公開