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HQ_15 メンタルヘルスの状態推定に活用できるセンシング技術にはどのようなものがあるの?

本記事の対象者
(●)サービス利用者向け(個人ユーザ・産業保健スタッフなど)
(●)サービス事業者向け(開発企業・サービス提供関係者)
)学術関係者・行政担当者向け

 

要約

既に多くのデジタルヘルステクノロジ(DHT)を活用したサービスがリリースされていますが、DHTを体系的に分類した技術領域についてのコンセンサスは得られていません。私たちは文献レビューの結果をもとに11の技術領域(脳波デバイス系、心拍推定、非接触心拍・脈波推定、運動・身体活動、睡眠推定、音声・感情解析系、食事管理、セルフケア/CBT/マインドフルネス、心理的安全性、アバター・メタバース系、コミュニケーションロボット系)を暫定的に設定しました。

1.何を調べたの?

近年のウェアラブル端末やスマートフォンには様々なセンサー技術が使われています。例えば、加速度計により歩数を測定したり、GPSで場所を特定したり、通話の回数を自動で記録するというような機能が搭載されています。これらの技術で個人がデバイスを使用する際の特徴がとらえられることから、諸外国では先の技術の総称として「デジタルフェノタイプ」と呼ばれています※1
このデジタルフェノタイプは大きく2つに分類されています。一つは、受動的なパッシブデータと呼ばれる分類で、端末に搭載されたセンサーなどによって身体活動量、睡眠量、画面のオンオフ時間、通話やメールのログなど自動的に取得されている情報を指します。もう一つは能動的なアクティブデータと呼ばれる分類で、端末にインストールされたアプリケーションなどでのやりとり(例えば、食事の写真をアップロードする、アンケートに回答するなど)を通じた個人の嗜好や今の気持ちなどの主観的なデータ情報のことを指します※2。これらの技術の活用がメンタルヘルス介入の新アプローチとして期待されているのです。
一方で、既存のメンタルヘルス介入におけるデジタルヘルステクノロジ(DHT)サービスでは、アバターを活用したものや、コミュニケーションロボットなどによる癒し効果を謳った商品、インターネットなどを介した認知行動療法(iCBT)もありますが、これらはデジタルフェノタイプには含まれていません。このように、メンタルヘルス関連サービスで私たちが接する機会のあるDHTを包括的に網羅した体系的な分類は存在していませんでした。
そこで、私たちは 研究者がよく使用している学術論文データベースのうち、PubMedとGoogle scholarを使って、これまで発表されてきたDHT技術のレビュー文献を集めました。さらに、それらのレビュー文献に記載されている技術領域の知見をもとに、デルファイ法という方法を用いてDHTの技術領域を体系的に整理しました※3

2.どんなことが分かったの?

今回の 文献レビューから、デジタルフェノタイプという概念においても技術分類のコンセンサスが得られていないことがわかりました(図1)。冒頭に紹介した通り、一般的にデジタルフェノタイプはアクティブデータとパッシブデータに分類されていましたが、近年ではその両方の特徴を備えているハイブリットデータという分類も提唱されていました。また、アクティブデータ・パッシブデータの下層にあたる技術については、非デジタルフェノタイプの技術も加えると混沌としていることがわかります(図1の第3層、第4層参照)。

図 1 デジタルヘルステクノロジに用いられるデジタルフェノタイプとその他の技術

私たちは、これらの技術がどのようなシーンで活用されるのかという点を念頭にして、認知行動療法やセラピーロボットなどの非デジタルフェノタイプ技術を加えたデルファイ法による技術分類を行いました。図 2にお示しするのは、 私たちがデルファイ法で導き出したデジタルメンタルヘルステクノロジで活用可能な11の技術領域です。

図 2 デジタルメンタルヘルス領域で活用可能な11の技術領域※3
(Image generated by DALL-E2, Microsoft Designer)

私たちが暫定的に策定した11領域(脳波デバイス系、心拍推定、非接触心拍・脈波推定、運動・身体活動、睡眠推定、音声・感情解析系、食事管理、セルフケア/CBT/マインドフルネス、心理的安全性、アバター・メタバース系、コミュニケーションロボット系)は、あくまで現在の学術的動向を反映したものです。つまり、スタートアップ企業が手掛けている新たなデジタルメンタルヘルスサービスなどは含まれていません。従って、この暫定的な分類について、今後も市民参画型(PPI)の対話を継続して行い、段階的にアップデートを行う必要があることに注意が必要です。

3.この記事はどんな役に立つの?

この記事は、まだコンセンサスが得られていないデジタルメンタルヘルス領域で活用されうる技術領域を暫定的に分類しました。今後、この分類を用いた技術動向調査や先行研究の調査を行うことで、どの技術領域がどのように活用されているかを調べることができます。これらの技術動向の開発傾向を詳細に調査することによって、サービス事業者や学術研究者にとっては今後のサービス開発の方向性や研究の方向性を検討するよい材料となり、サービス利用者にとってはどのようなサービスがどのようなテクノロジを利用しているのかを良い知るきっかけになります。また、行政にとってはどのような技術領域でガイドラインを整備すべきか具体的な議論に繋がることが予想されます。

 

更に詳細に知りたい方は

   

 

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