SR-Article

HQ_8 心拍などのバイオ・フィードバックを利用したDHT介入は労働者のメンタルヘルス疾患の発症予防に有用か?

本記事の対象者
(●)サービス利用者向け(個人ユーザ・産業保健スタッフなど)
(●)サービス事業者向け(開発企業・サービス提供関係者)
)学術関係者・行政担当者向け

 

要約

このヘルスケアクエスチョン(HQ)におけるシステマティックレビュー(SR)では、一般労働者を対象としたデジタルヘルステクノロジー(DHT)を用いたバイオ・フィードバック介入に関するランダム化比較対象試験(Randomized Controlled Trial: RCT)に関する文献検索を行い、3件が抽出されましたが、精神症状アウトカムが異なるため量的な統合には至りませんでした。

推奨

推奨文 エビデンス不十分のため推奨を保留する。
推奨度 ①行うことを強く推奨する
②行うことを推奨する
③行わないことを推奨する
④行わないことを強く推奨する
⑤エビデンス不十分のため推奨を保留する
合意率 75.0% (100%)
エビデンスの強さ D(非常に弱い)

推奨の見かた

1.何を調べたの?

近年、スマートフォンなどで手軽に使用できるメンタルヘルス対策用のアプリや、インターネットを介したメンタルヘルスに対するサービスが数多くリリースされています。一方で、これらのアプリやサービスで、メンタルヘルス症状の改善効果が検証されているサービスや製品は限定的であり、現在市場に出回っているものに本当に改善効果があるかどうかについては明確ではありません※1。

そこで、私たちはシステマティックレビュー(SR)やメタアナリシス(MA)という手法を用いて、デジタルヘルステクノロジー(DHT)を活用したバイオ・フィードバック介入のメンタルヘルス改善効果について調査することにしました。
今回は、DHTを用いた心拍計測などのバイオ・フィードバック介入に関連する14の学術論文のSRとMAの結果を報告します。

2.どんなことが分かったの?

 論文を調べるときは、専用の学術データベースに「検索式」と呼ばれるキーワードを入力して、ヒットした論文を精査します。DHTを使用した労働者へのメンタルヘルス介入について検索すると37851件の論文が見つかりました。
この論文を様々な適合基準と照合した結果、最終的には3の論文※2-4が労働者を対象としたDHTによるバイオ・フィードバックによる介入とメンタルヘルス一次予防効果を示した論文として残りました(論文選択の過程は解説コラム「PRISMAフローチャートって何?」をご参照ください)

教員と看護師に対し、心理的ストレス管理のためのリアルタイムモニタリング(心拍と心拍変動)を伴う体験型仮想シナリオを用いた介入がされ、仮想世界、ウェアラブルバイオセンサー、スマートフォンがDHTとして用いられ、対照群(Waiting-list: WL))および対面CBT群と比べ、慢性的な特性不安の減少や、対面CBT群と比較して不安の減少が観察されています。
また、健康な労働者に対し、仮想現実(Virtual Reality: VR)ベースの没入型心拍変動バイオ・フィードバックによる介入がされ、これらに関する心拍測定機器やアプリケーションがDHTとして用いられました。標準的な没入型心拍変動バイオフィードバック(対照群)と比較し、主観的リラクゼーションやリラクゼーションの自己効力感を高め、心の散漫さを減らし、この瞬間に集中することを高め、注意力を高めることが報告されています。
さらに、劇場の従業員を対象に、3群比較(心拍変動バイオ・フィードバック群(Heart Rate Variability Biofeedback: HRV-Bfb)、マインドフルネスベースの介入群(Mindfulness Based Intervention: MBI)、WL群で職場のストレスが軽減されるかが検証されています。なお、HRV-Bfb群はストレスの生理学とストレスと心拍変動の関係についての心理教育と、移動式HRVトレーニングデバイスの使用に関する指導で構成され、トレーニングデバイスやソフトウェアにDHTが用いられていました。ストレスの心理生理学的パラメーターとストレス関連症状について評価されていましたが、HRV-Bfb群とMBI群の間に統計学的に有意な差は認められず、いずれの介入群もWL群と差はありませんでした。

これらの論文の量的統合ができなかったため、本HQでは推奨を保留しています。

3.この記事はどんな役に立つの?

これまで、バイオ・フィードバックに関する様々な取り組みがなされており、バイオ・フィードバック機器全般の否定をしているわけではなく、RCTの量的統合が出来なかったたことが大きな要因です。また、バイオ・フィードバックを用いた介入は、ストレス関連症状と関連を認めないとする研究がある一方で、特性不安の減少には効果が認められるとする研究も一部散見されますが、技術的妥当性の担保が不明瞭であるというのが現状です。従って、本指針ではエビデンス不十分のため推奨を保留しました。

更に詳細に知りたい方は

   

 

エビデンス総体表

■バイオ・フィードバックのエビデンス総体(PDF)

結果のまとめ(SoF)表

■バイオ・フィードバックのSoF(PDF)

Future Research Question / Limitation

■Future Research Questionは>>>こちら

推奨決定のプロセス(合意形成プロセス開示)

総合指針をご参照ください。

本記事に対するステークホルダによる外部評価(SR)