PPI報告

シンポジウム「持続可能社会に資する人間工学 -デジタルヘルスがもたらすイノベーションと近未来労働環境デザインの課題-」で工学研究者との対話を実施

  • 日時:2022年10月15日(土)
  • 場所:産業保健人間工学会第27回大会(於:玉川大学)

 本大会のテーマは「人にやさしい持続可能社会」として、シンポジウム「持続可能社会に資する人間工学-デジタルヘルスがもたらすイノベーションと近未来労働環境デザインの課題-」が企画された。本セッションは,近未来の労働ビジョンを基に、産業保健人間工学が今後果たす役割や課題について、会員の皆様と意見交流を行う機会として企画したものである。

1) 日本人間工学会がまとめたSDGs時代に求められる人間工学未来アクション・ビジョンが示す新しい働き方と技術革新の課題、2) バックキャスティング手法により医学生がまとめた近未来の内視鏡医療労働ビジョンの紹介の後、3)今年度より産業保健人間工学会も連携団体として参画する日本医療研究開発機構(AMED)のヘルスケア社会実装基盤整備事業の概要・技術動向の話題を通じて、今後社会実装が進む新たな働き方のイノベーションに対し、産業保健人間工学はどのような貢献ができるのか、どのような取り組むべき課題があるのかを、積極的に議論する場となった。

 報告者は、石井賢治氏(大原記念労働科学研究所)・榎原 毅氏(産業医科大学・人間工学)であった、「デジタルヘルス・テクノロジ活用の学会ガイドラインの整備に向けて-デジタルヘルス・テクノロジの技術動向と解決課題-」と題し、AMEDの研究開発課題である「メンタルヘルスに対するデジタルヘルス・テクノロジ予防介入ガイドライン」の特色が紹介された。主なポイントは、1)8学会連携による研究開発体制、2)Minds参照型の産業保健ガイドライン、3)多様なステークホルダ対応、4)持続可能性の4点について説明された。メンタルヘルス不調による離職・休職の割合が高く、社会への影響は大きい。年々精神疾患の罹患率が上昇しており、メンタルヘルス予防の新しい産業保健介入法として、デジタルヘルス・テクノロジを活用したヘルスケアサービスが急成長している。現在の技術動向として、心理計測のアプリや機器が各社より開発されているが、信頼性・妥当性は明らかではないものも多数存在していることなどの紹介があった。この点においては、提示される数値の質を評価できず、過去得られているエビデンスとは異なる方法で測定されているものもあり、精度等に関する課題があることや、有効性・効果に関する課題として、薬剤は厳格なプロトコルや審査があり、治験の実施で有効性や効果が担保されているが、デジタルヘルス・テクノロジにおいてはプロトコルや審査がない現状であり、今後の課題であることが共有された。ほかにも、データ連携やセキュリティに関する課題として、デジタルヘルス・テクノロジによって得られたデータは異なるセキュリティレベルを持つものと考えられ、管理方法や利活用について慎重に考えていかなければならない。バイアスおよびバイアスの再生産に関する課題については、オンラインに存在する偏見を再生産してしまうことや、人種による学習データの違いなどが問題として挙げられている。これらの課題に対して、メンタルヘルスに対するデジタルヘルス・テクノロジ予防介入ガイドラインの開発を進めていくことを参加者とともに共有し、参加者からも活発な提案・要望が寄せられた。

本記事報告者:常見 麻芙(名古屋市立大学)