日本労働科学学会秋部会にて、「デジタルヘルス・テクノロジーの発展と課題」について話題提供を行いました
- 日時:2022年12月10日(土)
- 場所:オンライン開催
2022年12月10日にオンライン開催された日本労働科学学会2022年度秋部会において、表題のとおり口頭にて話題提供を行った。当該学会は年1回の本大会と春秋2回の部会が開催されており、研究者と産業界・企業の実務者等が連携して、労働安全衛生に関わる学術研究推進、人材交流、人材育成等を行っている。本部会では、城内博氏(労働安全衛生研究所)より『労働安全衛生法50年「法令準拠型」からの脱却を目指して』、齋藤朋子氏(株式会社松下産業ヒューマンリソースセンター)より『中小企業における人材育成と組織活性化への取組み』、五十嵐元一氏(桜美林大学)より『ホスピタリティ産業のイノベーションのための企業行動モデルの提示と組織や働き方に関する研究レビュー』、および石井の4題の報告があった。
本題ではデジタルヘルス・テクノロジー(DHT)の概況に触れた後、産業現場へ導入する際に考えられる課題について話題提供を行い、研究者・企業実務者等と議論した。
メンタルヘルス不調予防やウェルビーイング向上の取り組みとして、DHTの活用や社会実装が進んでいる。特に機械学習と画像解析技術の進歩を背景としたDHTの発展がめざましく、機器の小型化やウェアラブル化によるセンシングから、非接触・遠隔でのセンシングに変化しつつある。一方、これらDHTの課題も見えてきている。DHTには精度や妥当性・再現性を伴わない、あるいは効果検証を行っていないものが多く存在する。また、評価試験の手法・質や目的によってDHTの品質・特性の相違が生じている。加えて、ヘルスケア領域と医療領域のデータ連係に伴い、情報管理やデータの品質管理、セキュリティの課題が表出している。近年では、元々バイアスを内包したデータセットを用いてAIが学習することにより、バイアスが再生産されていることが指摘されている。これらの課題を解決するために、産業界のアライアンスや、DHTに関するガイドライン策定に向けた動きも興っており、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の事業として、8学会が連携し、診療ガイドラインMindsに準拠したガイドライン開発に取り組む事業『メンタルヘルスに対するデジタルヘルス・テクノロジ予防介入ガイドライン』が開始されている。
フロア討論では、特にデジタルディバイド問題について、日米の相違、経済格差、スマートフォンが贅沢品なのか生命維持に必須のものか、といった観点から活発な意見交換が行われ、DHTが健康格差を縮める方向で活用されることが望まれた。
本記事報告者:石井賢治(大原記念労働科学研究所)