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HQ_24 DHTアプリのトレンドは国によって違うの?また今後はどうなるの?

本記事の対象者
(●)サービス利用者向け(個人ユーザ・産業保健スタッフなど)
(●)サービス事業者向け(開発企業・サービス提供関係者)
( )学術関係者・行政担当者向け

 

要約

この記事は、Digital Health Technology(DHT)アプリケーションのトレンドを調査した結果に関する内容を記載しています。調査の結果、運動の方法やランニングの記録をとってくれるアプリケーションのトレンドが高く、食事・体重記録関連、メンタルヘルスケア関連の利用も多く見られました。また、国別に見たところ地域の慣習や宗教に根ざしたアプリケーションが見られました。

1.何を調べたの?

スマートフォンやその他のディバイスの普及・進化に伴って、日々多くのアプリケーションがリリースされています(なんと、1 日あたり 250 件!※1)。近年では世論の健康意識の高まりを受けて運動・フィットネス、食事管理、メンタルヘルス不調や睡眠関連のDHTアプリケーションが続々とリリースされています。
現在、日本のスマートフォンユーザーにおけるヘルスケア関連のアプリケーション利用率は 53%(2019 年 9 月比で 21 ポイント増)、1 人当たりのヘルスケアケーション利用個数も 1.98 個と 2019 年 9 月の 1.61 個から増加しているようです※2。
では、これらのDigital Health Technology(DHT)アプリケーションの利用状況は国によって異なるのでしょうか?そこで、アプリケーションのダウンロード数やトレンドをもとにして、どの国でどの様なアプリケーションが使用されているのか調査してみました。 対象国は日本、アメリカ、イギリス、フランス、台湾、韓国、インドの 7カ国です。2ヶ月に一度、インターネット上のアプリケーション紹介サイト※3にアクセスし、国ごとの無料・有料アプリケーションのランキングを調査しました(無料・有料それぞれトップ20のアプリケーションずつ)。また日本のみ半年に一度(2月と8月)、DHTアプリケーション人気トップ100を調査し、カテゴリーごとに分類してみました。

2.どんなことが分かったの?

各国とも無料のアプリケーションはランキングの変動が激しいですが、有料はトップがほぼ固定となっています。各国とも人気があるのが運動の方法を提案したりランニング・ウォーキングの記録をとってくれるアプリケーションです。無料では、歩けば歩くほどインターネット通信販売で使えるポイントが貯まるアプリケーションが特に人気があり、GPSと連動して自分が歩いた経路を地図上に表示できる機能を持ったものや、腕時計型などの活動量計と連携できるものなどもよく活用されています。有料で人気があるのは睡眠状態を測定するアプリケーションや子供の発育・発達に関する育児書のアプリケーションなどで、こちらもランキング上位をにぎわせています。
2023 年 2 月の時点では各国1つは新型コロナ関連のアプリケーション(日本ではCOCOA)が上位にありましたが、4月以降はランキングに顔を出さなくなりました。COCOAは2022 年11 月に機能停止が発表されましたが、その後は機能停止版アプリケーションがリリースされ、アプリ内で接触通知発生回数の調査が行われていました※4。日本においてマスクの着用が任意となったのは2023 年 3 月13日でしたので、それと前後して姿を消していったということになるかと思われます。
国ごとの特徴としましては、イギリスとインドではイギリス公式の警察・消防体力テストアプリケーションが定期的にランキングに上がってきます。現在のインドでイギリス式の採用試験が実施されているかどうかは調べてもわかりませんでしたが、歴史的背景を考えると納得できる事象に思えます。台湾・韓国では漢字・ハングル文字でのみ提供されているアプリケーションが多く存在しています。例えば韓国では「108拝」と言われる仏教に基づいた礼拝の方法があります。この108拝に関するアプリケーションにはやり方の紹介や回数の自動カウント機能が搭載されているようです。このように地域の慣習や宗教に根ざしたアプリケーションもありますので、そういった目でアプリケーションを見るのも面白いかもしれません。ちなみにインドのヨガに関しては、瞑想やヒーリングといったカテゴリのアプリケーションおいて世界各国で利用されています。

 下の図1は、2023 年 2 月に日本の iPhone でランキングされたDHTアプリケーションで、トップ100の割合をグラフで示したものです。複数の機能を持ったアプリケーションはアプリケーション名を基準に分類しています。最も人気のあるカテゴリは無料・有料にかかわらず運動の方法やランニングの記録をとってくれる運動・フィットネス関連でした。2番目は無料では食事・体重記録関連、有料ではメンタルヘルスケア関連となっていました。無料のアプリケーションは使用中に広告表示が入る場合があるので、メンタルヘルスケアアプリケーションでは、そういった部分の使い勝手の良し悪しが影響している可能性が考えられます。その他に分類したアプリケーションはトレーニングジムなど店舗と連携して使用するもの、視力回復、サウナ関連などです。

HQ15_Fig1

図1 iPhone でランキングされたアプリケーションカテゴリの割合
(調査日:2023年2月1日, APLLION)

図2は、半年後の2023 年 8 月に日本のiPhone でランキングされたDHTアプリケーションのカテゴリの割合を同様にグラフで示したものです。

HQ15_Fig2

図2 iPhone でランキングされたアプリケーションカテゴリの割合
(調査日:2023年8月17日, APLLION)

無料・有料共に運動・フィットネス関連が最も人気のあるカテゴリとなっているのは変わりありません。無料の各カテゴリの割合は2 月と比べてほとんど変動がありませんが、有料ではメンタルヘルスケア関連が減少し、睡眠関係の割合が高くなっていました。2023年の夏は猛暑が続き、寝苦しい夜も多かったと思います。また、季節性感情障害という病気があり、これはうつ病の一種で、秋または冬に抑うつが多くなり、春や夏になると治まるというサイクルを繰り返すものです。DHTアプリケーションのトレンドに関しては、物によってはこのような季節性の影響があるかもしれません。

では、今後のDHTとりわけメンタルヘルスに関するアプリケーションはどのようなトレンドになるのでしょうか?私たちが調査したシステマティックレビュー(SR)で使用されていたメンタルヘルス領域のDHT研究では、68プログラムによる介入研究が行われていましたが、そのうちアプリケーション化されているものはWebプログラムを合わせても25プログラム(約37%)でした(図3)。また、アプリケーション化されている領域は認知行動療法やマインドフルネスが多くを占めていましたが、今後は組織介入、ストレスマネジメント、ポジティブ心理学などの分野のアプリケーション開発が活発になる可能性を秘めていると考えられます。

HQ24_Fig3
図3 メンタルヘルス領域で開発されているアプリケーションのカオスマップ

3.この記事はどんな役に立つの?

現時点で得られたiPhoneのアプリダウンロードデータからは、DHTアプリケーションについては加速度計やGPS機能を利用した運動・フィットネス関連のアプリケーションにトレンドがあるようでした。メンタルヘルスアプリケーションについては季節によってトレンドが増減する可能性が考えられました。また、メンタルヘルス領域で多用されているアプリケーションは認知行動療法やマインドフルネスでしたが、今後はポジティブ心理学やストレスマネジメント、組織介入などのアプリケーションが開発されることが予測されます。この記事を執筆している時点(2023年10月)では、本体自体を曲げて直接腕に装着できるスマートフォンが発表になりました※5。技術の進歩とともに新たなDHTアプリケーションが開発され、我々の生活に一役買ってくれることを期待します。

更に詳細に知りたい方は

   

 

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