Future Research Questions

Future Research Question 5「メンタルヘルス領域におけるDHTを用いた更なる研究の必要性」

1.アウトカムの偏り

本プロジェクトのシステマティックレビュー(SR)で採用した各研究において検討されたアウトカムの偏りには課題が残ります。つまり、本SRでは労働者のメンタルヘルス一次予防に関連する広範なアウトカムを対象としていますが、結果的に多くの研究で報告されていたアウトカムは主要な精神症状(抑うつ、不安、主観的ストレス、等)に限られていました。従って、その他の精神症状(トラウマ症状、孤独感、等)やポジティブメンタルヘルス(Eudemonic wellbeing、レジリエンス、等)、仕事関連アウトカム(プレゼンティーズム、アブセンティーズム、等)、自殺予防、物質使用、有害事象を対象とした研究の推進が期待されます。

2.研究対象者

それぞれの研究ではハイリスク集団になりうる特定の労働者を対象とした研究が僅かでした。つまり、本SRではメンタルヘルス一次予防の対象となる労働者全般に関する研究を収集ていますが、女性労働者、障害のある労働者(発達障害等)、社会的に弱い立場やマイノリティに含まれる労働者等、ハイリスク集団になりうる特定の労働者を対象とした研究はごく僅かでした。また、アクティブコントロール群が不統一であるため、コントロール群の標準化が必要です。

3.量的統合ができなかったHQに関する更なる研究

加えて、本プロジェクトSRではDHTを用いた組織介入、睡眠、食事、コミュニケーションロボット等のHQについては量的統合が不可能でした。これらの技術領域についても更なる研究が必要です。

4.複数のアプリケーション併用によるばく露

さらに複数のアプリケーションの併用に伴う相互作用(いわゆる薬の飲み合わせのようなアプリケーションの組み合わせ問題)による視点で包括的な評価も必要となります。この点についても更なる研究が必要です。

5.介入技法や従来の介入との優劣

DHTプログラム化した介入技法間において、他の介入技法との効果の優劣(例えば、インターネット認知行動療法(iCBT)よりもDHTマインドフルネスの方が効果が高い、など)に関する検証が必要です。また、通常の対面型による介入とDHT介入による非劣勢試験(例えば、少なくともiCBTは通常のCBTより劣っていないことの証明)と優越性試験(例えば、通常のCBTよりも現在普及しつつある生成AI実装型介入の方が効果が高いことの証明)の観点からも更なる検証が必要です。